7×7 killall-go  ·  JA opening  ·  2026-08-22

Right Zone,
Wrong Verdict

証明済みの関連領域(relevance zone)を正解データとして、KataGo の出力がそれを復元できるかを 8,385 局面で測った。当初の仮説「不確実性の帯 ≒ RZ」は乱択以下で反証された。 だが符号付き ownership は RZ を AUC 0.910 で復元する。 同じ盤面で、勝敗の判定は AUC 0.411——偶然を下回る。

反証

不確実性は RZ を符号化していない

1−|ownership| の top-m 一致率は 0.445(乱択 0.536)、AUC 0.357。 探索の分散 ownershipStdev も、着手ごとの ownership 分散 mo_var も 乱択以下。KataGo に最も有利な信号を与えた上での結果。

一致

ただし符号付き ownership は復元する

−ownership(白の勢力)は top-m 0.860 / AUC 0.910。 等方的な幾何ベースライン(白石までの距離、0.765 / 0.807)を明確に上回る。 RZ は「争点」ではなく「生死が問われている一団の潜在的勢力圏」だった。

副産物

勝敗判定は順序が反転している

深さ・材料を揃えた 2,042 局面(証明済み正例・負例が各 1,021)で AUC 0.411。 探索 10 倍でも 0.428、大型モデルでも 0.446。0.5 を超えない。

01 — 正解データ

証明木から 82.9 万件の RZ 付き局面

素材は JA 開局(B[dc];W[pass];B[de];W[df];B[ce])を単機で解いた OFTS の証明木 756 MB。SGF の各ノードには RZ[勝ち手][RZone][負け手] が hex ビットボードで、コメントに solver_status と NN の p/v が入っている。

抽出ノード
3,318,351
RZ 付き証明済み
829,856WIN 267,498 / LOSS 562,358
解析対象
8,385層化+盤面重複除去
|RZ| 中央値
27 / 49最小 9・最大 49

木は W[ee] 配下に 99.87% が集中し、RZ サイズは深さと相関する。 一様抽出では 1 本の狭い部分木を 1 つの難度で測ることになるため、 (深さ帯)×(RZ サイズ帯)×(WIN/LOSS)の 40 セルから各 200 局面、 加えて希少な非 ee 部分木を全数取り、盤面と手番で重複を除いた。

健全性。抽出の win_hex は実在の子ノードの手と 10,000/10,000 で一致。 木のステータスは worker 台帳 .jobs と 19,882/20,000 で一致 (残り 35 件は「job=負け → 木=UNKNOWN」=黒が失敗した枝を木が採用しなかっただけ)。 座標変換は SGF→GTP、minizero ビット→ownership 索引、goboard の 3 経路が独立に同じ点を指す。
02 — ルールの橋渡し

killall-go は komi 48.5 の通常囲碁と等価

KataGo は killall-go を知らないので、まず等価変換を立てた。 killallgo.h の実装では黒が 2 子置いて白を全滅させれば黒勝ち、 白は 1 目でも生き残れば勝ち。面積計算で白の地を a とすると黒の差は 49 − 2a − komi なので、a=0 のときだけ黒勝ちになる条件は 47 < komi < 49

7 路 · AREA · SITUATIONAL superko · 自殺禁止 · komi = 48.5。 komi 48.5 は訓練分布外なので、通常の komi = 9.0 を対照として全局面で並走させた。
03 — 主結果

予測子パネル

評価は全予測子で同一。49 点を並べ替え、上位 m 点(m = |RZ|)を取り、RZ との重なりを見る。 |S| = |RZ| なので precision = recall となり 1 数字で足りる。 同値はシード付き微小ノイズで崩し 5 回平均。閾値に依存しない確認として AUC も併記した。

8,385 局面 · komi 48.5 · 1,000 visits · b18c384nbt
予測子内容top-mvs 乱択AUC
ベースラインが要る理由。|RZ| の中央値は 49 点中 27 なので、 盤面全体を返すだけで recall 1.0・precision 0.55 になる。 サイズ整合の乱択(0.536)と幾何ベースラインの両方を置かないと、どの数字も意味を持たない。
04 — なぜ不確実性では届かないか

RZ の 2/3 は「決着済み」の点

RZ は証明の依存集合であって争点ではない。取り除くと証明が壊れる点は、 所有が確定していても RZ に入る。実際に分解すると——

RZ の構成(1 局面あたりの平均点数)
区分点/局面盤面比
RZ かつ 石が置かれている10.722.4%
RZ かつ 空点で争点(|own|<0.8)5.812.1%
RZ かつ 空点で決着済み9.219.2%
RZ 外22.246.4%

争点はわずか 12.1%。逆向きに、不確実性の帯が RZ の部分集合になっているかも確かめたが——

争点バンド {|ownership| < τ} と RZ の関係 · 基準率 0.536
τバンドの大きさprecisionrecall
0.22.20.5010.044
0.44.80.4980.092
0.68.20.4910.157
0.814.40.4830.270
0.921.60.4780.401

precision は全ての τ で基準率 0.536 を下回る。 争点バンドは RZ の部分集合でないどころか、乱択より RZ に入りにくい。

05 — 機序

RZ は勢力圏をなぞる

2 例で見ると分かりやすい。RZ は白の一団を包むだけでなく右上隅まで伸びている—— 白が逃げ出せる余地が証明に効くからだ。等方的な距離ではその形に届かないが、 ownership はそれを捉える。

的中(予測 ∩ RZ) 誤検出(予測したが RZ 外) 取り逃し(RZ だが予測外)
06 — 対照実験

探索量にもモデル規模にも komi にも依らない

条件を振ったときの top-m / AUC
条件n own_wprox_wunc乱択
主結果 · komi 48.5 · 1k visits · b188,385 0.860 / .9100.765 / .8070.445 / .3570.536
komi 9.0(通常の 7 路囲碁)8,385 0.851 / .9000.765 / .8070.491 / .4200.536
10,000 visits1,049 0.846 / .8990.762 / .8020.453 / .3660.538
b28c512nbt(大型モデル)1,049 0.850 / .9000.763 / .8020.467 / .3800.538
GHI 条件付き証明を含む8,785 0.862 / .9110.766 / .8070.452 / .3650.540

平均が外れ値に引きずられていないことも確かめた。own_w は 中央値 0.889、p10 0.706、46.2% の局面で 0.9 以上、0.5 以下は 1.5% のみ。 prox_w は中央値 0.771 で 0.9 以上はわずか 3.1%。

net は幾何を超える情報を持っているか

点単位のロジスティック回帰を、局面単位で train/test を分けて当てた(410,865 点)。 幾何ブロックは白石・黒石・全石までの距離と辺までの距離、 net ブロックは ownership・stdev・policy・mo_var。

特徴ブロック別 test AUC
ブロックtest AUC差分
幾何のみ0.8400
net のみ0.8347
幾何 + net0.8692+0.0292

単独 AUC は own が 0.161(反転して 0.839)で最強。d_white 0.775、 stdev 0.415、policy 0.434、mo_var 0.413。 net は幾何に上乗せする情報を確かに持っている。ただしそれは不確実性の形をしていない。

07 — 副産物

戦場は正しく描き、勝敗は逆に読む

RZ の解析中に、komi 48.5 での勝敗一致率が 0.0% と出た。 これは証明木が 1 本の証明である以上そこに現れる局面が全て「黒勝ち」だからで、 負例のないテストセットでは「白が生きる方に偏っている」のか 「判別できない」のかを切り分けられない。

幸い worker 台帳には白が証明上生きる局面が 1,021 件ある(status −2)。 同数の黒勝ち局面と合わせ、深さ(21.3 vs 21.5 手)と白石数(9.6 vs 9.6)を揃えた 2,042 局面で判別能力を測った。

証明済み正例・負例 各 1,021 での判別 · 0.5 = 信号なし
条件正解率AUC(勝率)AUC(白石の ownership)
komi 48.5 · 1,000 visits45.4%0.4110.429
komi 9.0 · 1,000 visits44.8%0.4100.414
komi 48.5 · 10,000 visits45.1%0.4280.427
komi 48.5 · b28c512nbt44.9%0.4460.460

白石上の平均 ownership は、白が死ぬ局面で −0.924、白が生きる局面で −0.713。 KataGo は、白が実際には全滅する局面の方でこそ「白の石は生き残る」と強く確信している。 探索を 10 倍にしても大型モデルにしても 0.5 には届かない。

同じ盤面に対して、空間的な出力(どこが戦場か)は AUC 0.910、 勝敗の出力(誰が勝つか)は AUC 0.411。 この乖離が本調査で最も再現性の高い所見だった。
08 — 限界

この結果が言っていないこと

  • RZ は健全な上界であって最小ではない。 別の証明を見つければ別の RZ が出る。したがって「復元率の上限」は未知で、 絶対値ではなく予測子どうしの比較として読むべき。
  • 生死が問われる一団が自明な設定である。 7 路 killall-go では常に「白の一団」が対象なので、 −ownership が勢力圏を指せば済む。一般の盤面で 「どの石の生死が争点か」を先に特定する問題は、ここでは扱っていない。
  • 局面分布は証明探索が選んだもの。 killall-go 局面の一様標本ではなく、ソルバがジョブとして投げる価値があると判断した局面。 判別 AUC 0.411 は「この分布上で」の数字。
  • 1 開局 1 ゲーム。JA のみ、7 路 killall-go のみ。他開局・他ゲームへの一般化は未検証。
09 — 含意

次にやるなら

RZ 探索を大盤へスケールさせるとき、NN 側から RZ を先読みする筋は 不確実性ではなく ownership を見ろということになる。 幾何に +0.029 AUC 上乗せするだけの情報は実際にあり、しかも その空間的内容は komi にも探索量にもモデル規模にも鈍感で安定している。

一方で勝敗判定は使い物にならないので、 「NN が難しいと言った部分木を厳密求解に回す」型のハイブリッドは、 少なくとも value を難易度指標に使う限り成立しない。 NN に割り当てるべき役割は領域の切り出しであって判定ではない